2006年05月13日

第三十話 百年後

 そこはすっかり荒れ果て、ひどいものだった。窓ガラスは破れ、外から入り込んだ水が足元に溜まっている。薄暗い建物の中、散乱したガラスの破片、茂り始めた雑草……
 ここにはかつて、どんな光景があったのだろう?
 表面が破れ、ほこりを被ったソファたちが幾つもあり、炎の絶えた暖炉は、真っ白に蜘蛛の巣に覆われていた。壁に吊り下げられた、錆付いたベル。
 壁に掛けられたまま、忘れられた額縁。中にあるのは、色褪せて消えてしまった写真だろうか?
 机の表面に、刻み込まれた跡。屋敷で働いた使用人たちが囲んでいたテーブルを、飾るものは何も無い。かつて並んだ湯気立つディナーの数々も、その上を飛び交った雑談も。
 ここはかつて、私の曾祖母が働いていた屋敷。
 今はもう、誰の声も、聞こえない。
posted by kuga at 22:24 | TrackBack(0) | 短編集
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