2006年05月09日

第二十七話 彼女の庭

 背の高いレンガの壁に囲まれた屋敷の庭園。主人たちの為に庭師たちは誇りを持って、技術の粋を尽くし、食卓を飾る野菜を、瑞々しい果物を、薫り高い花々を、育て上げる。
 緑が広がる庭園は太陽の光を浴び、色とりどりの花が咲き乱れる。壁際に据えられたサクランボの木々も、小さな白い花をつけて、風景に彩りを加えていた。
「ここがいいわ、ハリー。ここにわたしのお庭を造りたいの」

 小さな少女は、庭の空いた一画、土が姿を見せる場所の前に立ち、傍らに立つ庭師へ呼びかけ、しゃがみこんで、小さなシャベルで土を掘り始める。
「それでお嬢様、何を育てるんで?」
 土をいじる楽しげな様子を見ながらも、浅黒く日焼けした庭師は、少女の洋服が汚れないか、世話役メイドのニナに怒られるのではないか、気になっていた。
「花を……わたし、ユリが好きだから、いっぱい咲かせたい」
「ですが、ユリでしたら私たち庭師が丹精込めて、育てております。わざわざお嬢様が土をいじらなくても……」
「あなたたちのユリでは、かわいそうだから、自分で育てたいの」
「何が、でございますか?」
「――わたしが死んだとき、一緒に眠ってくれる、ユリの花を」
 青白い顔の少女は、額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、まぶしそうに庭師を見上げて、微笑んだ。
posted by kuga at 23:30 | TrackBack(0) | 短編集
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