2006年02月28日

第十二話 階を隔てた世界〜3 代償

「まったく、くだらない世界だ」
 ソファに身を預け、青年は呟く。パーティが終わる度、その思いに苛まれる。あの場で発した言葉に、どれだけの意味があるのだろう? 何も生み出しはしない。百年どころか、明日には消えてしまう価値しかないのだ。
「いちばんくだらないのは、今の自分自身か……」
 豊かさを手にしてから、本質から遠ざかっていく。

 天井の高い部屋、彼を取り囲む天井の装飾や壁に飾られた絵画、作者が死んでも残り続けたこれらの作品に囲まれながら、なぜ彼らのように生きられないのか、どこで道を誤ったのか?
 答えはわかりきっている。
 それが最善の答えだと思っていたのに。
 相続しても、描き続けられると思ったのに。
 今では、伯母の奴隷に過ぎない……
「――もう一度、君の絵が描きたいよ」
 貧しくとも、ただあの時間だけは生きている気がした。
 あの子はもう、僕を忘れてしまっただろうか?
posted by kuga at 03:41 | TrackBack(0) | 短編集
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