2006年02月26日

第十一話 一日の終わり

 一日中歩き続けて、家の中にいるだけなのに、一体どれだけ足を酷使したのか、わからないほどに。ブーツの紐をほどいて、姿を見せる私の足が可哀想になって、軽く柔らかく撫で付ける。
 脱ぎ捨てたブーツを揃えてから、先に眠っているヘンリエッタを起こさないように、ベッドの上に寝転がる。低い天井、閉ざされた窓。沈鬱な雨が、定期的にガラス窓を震わせた。
 蝋燭の赤い光が無ければ、まるで監獄のように。
 この世界は、閉ざされている。

「――寒い」
 他人の声に思えるほど、呟きはかすれていた。
「何も考えない方がいいわ。眠る時間が減るのだから」
 先に眠っていたはずのヘンリエッタが、静かに告げる。赤い炎を照り返す、ヘンリエッタの金色の髪。
「蝋燭を消して眠りなさい、サリィ。明日はきっといいことがあるわ」
 小さくあくびをして、ヘンリエッタは目を閉じる。美しいその寝顔を、私にとっての安らぎを、もう少しだけ見たくて、私は蝋燭をつけたまま、静かに寝転がった。
posted by kuga at 20:12 | TrackBack(0) | 短編集
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